楽焼(らくやき)は、ろくろを使用せず手とへらだけを使った手捏ね(てづくね)と呼ばれる方法で成形した後、750℃ から1,100℃にて焼成を行った、軟質の施釉陶器です。

手捏ねによる成形で制作されていますので、わずかな歪みや厚みのある形状であることが特徴となり、茶碗の他にも、花入、水指、香炉などがあります。

 

楽焼の歴史は、天正年間(16世紀後半)に遡ります。瓦職人だった長次郎が茶人である千利休の指導によって、聚楽第を建造する際に土中から掘り出された土(聚楽土)を使って焼いた「聚楽焼」(じゅらくやき)から始まります。

二代目・常慶の父、田中宗慶(一説によると利休の子であったという説があります。)が豊臣秀吉から、聚楽第からとった樂の印章を賜ったため、これを用いるとともに家号にしたことから楽焼となったといわれています。

 

以来、京都の長次郎に始まる楽家の歴代の作品を本窯(ほんがま)と呼び、楽家の作陶法をある時期にうけついだ作品を脇窯(わきがま)と呼びます。また、楽家の製法を基本として各時代の茶人が手づくねによって造ったものを別窯(べつがま)ともいわれています。広い意味では、京都の諸窯や各地の御庭焼(おにわやき)で焼造された手捏ねの陶器を,すべて楽焼と呼ぶ場合もあります。

 

本窯と呼ばれる楽焼は千利休がお茶を点てる為に考案したため、細かい部分も茶道のお手前に関係して工夫がなされています。

 

口造り…「五鋒」や「五岳」と呼ばれる造りで、縁が五つの山のように微妙な高低差が造られています。これは茶道のお点前の際に茶碗の縁に、杓、茶筅をのせかけた時に落ちるのを防ぐためと、縁が単調にならないようにというデザイン的な意味も兼ねています。

 

椀内横…「茶筅摺り(ちゃせんずり)」と呼ばれるわずかな段差があります。これは、お茶を点てるときに、茶筅を動かしやすい様に工夫されたものです。

 

椀内下部…わずかな窪みがあります。これを「茶溜まり(ちゃだまり)」と言い、文字通り茶を飲み干したあとの残りが集まってくるように制作されています。

これによって、お茶を飲み終わったあとも見栄えが悪くなります。

 

茶碗の色…抹茶を引き立てる、黒、赤、飴色、などが主になります。抹茶の色を消してしまうため、緑色の茶碗はあまり作られません。

有田焼 用語辞典(目次)